第四話「山賊退治」

 リオンは、いつものようにの店にやってきて、カウンターで優雅にお茶を飲んでいる。どうやらの淹れるお茶を気に入ったようで、時折、アイテム購入やを任務に連れていくついでにお茶を所望するようになった。
 今日は、リオンが次の任務に必要なアイテムを買いに来ていたので、は必要な品を揃えるために店内をうろうろと歩き回っていた。
「他には、パナシーアボトルの追加だ。お前の作るパナシーアボトルは、他のものよりも効き目が良いからな」
「それは、お褒めにいただき光栄です」
 リオンは、少しだけを認め始めているのかこうしてたまに、の作るアイテムを褒めるようになっていた。
「褒めても憎まれ口か」
「アイテムを買ってくれるのは、嬉しいけど。その後のバイトが無ければね」
 大抵、このようにアイテムを揃えて買って行くとは、リオンに自分の任務を手伝うように命令されることが多い。
「お前の腕を知るいい機会だ。山賊退治で人の役に立つので一石二鳥だろう」
 リオンは、国家機密に関わる必要のない山賊退治やモンスター退治など、それなりに人の役に立つことがわかる仕事ばかりをにまわしていた。こういう仕事は、傭兵たちを集めてこなすことも多いので、のような国家機関に属さない人間も、任務に連れて歩ける。
「私は、損ばかりの気がするわ。お店の宣伝にもならないし」
「兵士を何人か連れていくから、そいつらにアイテムを使えば宣伝効果になるだろう」
「お店の名前連呼してやる」
 の意気込みに、リオンはため息を付いた。
「今日は、ダリルシェイドからハーメンツまでの街道沿いを縄張りにしている山賊団の征伐だ」
「山賊騒ぎが絶えないなんて、景気が悪い証拠ね。働き口がないから、山賊になるのよ」
 以前も、はリオンと一緒に山賊退治に出かけていた。
「ほう、飾りのような頭でも政治がわかるのか」
「貴方が相手にする貴族のお嬢様は、政治に興味が無いと思われますが、一般市民は生活に密着しているので、そこそこ興味はありますよ」
 リオンの嫌味にもわざと、丁寧な口調でやりかえす。
「貴族の娘が、お前みたいなのばかりなら少しはマシになるだろうな」
 嫌味で返したのにもかかわらず、リオンが真面目な口調でを褒めたので不意を疲れたは、耳まで顔を赤くした。
「何故、顔が赤い?」
 飲んでいた紅茶のカップを置いてリオンは、訝しげにの顔を見つめた。
「私だって、褒められれば照れたりもする」
 は、恥ずかしそうにリオンの視線から逃れるように店内を移動した。その慌てた後姿にリオンは、密やかに笑った。
 は、リオンの注文した品をコンパクトにまとめてカウンターに置いた。
「僕だって、人を褒める事ぐらいある」
 リオンは、代金をに払って荷物を手に持って立ち上がった。も遠征用の支度をして店の外で待っているリオンの後に続いた。ダリルシェイドの出口で、今日の任務に参加する王国兵士と傭兵たちと待ち合わせている。
 二人は、なんだかんだと話しながら、待ち合わせ場所まで歩いていった。

 リオンたちの一団は、ハーメンツへの通じる街道沿いで見晴らしのいい丘に陣を敷いた。街道のエリアを6つにわけ、それぞれを王国兵士たちが斥候をする。傭兵たちは、突撃部隊なので本陣で待機中だ。も傭兵たちの部隊に組み込まれるのかと思っていたら、リオンが補佐をしろと命じたのでリオンの隣で斥候から帰ってきた兵士たちの報告を一緒に聞いている。
 は、周辺を拡大した地図に兵士たちの報告を書き加えていく。これまでに被害のあった場所、大勢の人が山中を移動したと思われる形跡などを地図上で照合していくと、山際の洞窟がアジトであると絞られていく。
「洞窟が山賊のアジトみたいね」
「洞窟内での正面突破はごめんだな」
 洞窟内は狭いので、一人か二人かが山賊に対峙することになる。とても効率が悪い。
「燻り出して洞窟の外で戦ったほうが有利よね」
「囮を使うという手もある」
「囮役は嫌よ」
 こういう囮は、女性がやったほうが成功するというものだ。囮を助けることを考えると負担がかかるので、囮を犠牲にするというやり方もある。は、傭兵扱いなので死んだとしても大した事件にもならない。兵士が犠牲になったらなったで、遺族が騒ぐが傭兵なら野垂れ死んだものと同じ扱いだ。リオンは、非情な手段も厭わないので、は釘を刺す。
「アジトに煙玉でも投げ込んで、火事だって叫べば大概の人はでてくると思う」
「アジトを半包囲して捕らえるのか。効率的だな」
「どこか一箇所、手薄にした方がいい」
 リオンは眉を寄せてシワをさらに深くする。
「敵に情けをかけろというのか」
「窮鼠猫を噛むという諺がある。決死の覚悟で戦われたら、こちらの被害も無視できないし……ある程度逃げてもらって、再び山賊をやってくれないと傭兵の仕事が無くるわよね」
「山賊退治ごときで、被害がでるのは納得いかないからな」
 リオンは、の後半の言葉を聞かなかったことにしたらしい。一網打尽にしない裏の理由も、リオンは知っていた。口に出さないだけだ。
「いいだろう、右翼の囲みを手薄にしておこう」
 リオンは、自分たちの隊の陣形を組み直し全軍に作戦を伝えた。行軍はすぐに行われ、アジトを半包囲して茂みに全員隠れた時点で、身軽な兵士に煙玉をアジトに向かって投げ込ませた。すぐに、火事だという叫び声を兵士たちがあげて、その声をきいた山賊たちが洞窟から飛び出してきた。
 リオンが、シャルティエを抜いて高らかと掲げて振り下ろした。その合図に一斉に、一団は山賊たちに突撃していった。
 結果は、リオンたちの圧勝だった。

存外、マシなようだな。……他のやつに比べれば。

[2012年 07月 09日]